第4回アジア太平洋食農倫理会議開催報告(地球研・助教 太田和彦)

FEAST HQ レポート, 学会

2020年の12月3日から16日の2週間、第4回アジア太平洋食農倫理会議(Asia Pacific Society for Agricultural and Food Ethics Conference 2020:以下、APSAFE2020)を、オンラインで開催しました。大会テーマは「持続可能なフードシステムを支える―良質な食べものと倫理的消費」です。21ヵ国から150名のご登録をいただき、盛況のうちに閉幕いたしました。

全体ポスター

今回のAPSAFE2020は、12月に広島大学で開催予定だった国際応用倫理会議(ICAE)のなかの一つの部会として実施されるはずだったのですが、COVID-19の感染拡大に伴い、オンラインでの開催の運びとなりました。開催にあたり目的としたのは、大きく次の3点です。

① 2020年に参加者がそれぞれの場所で経験した予期せぬ事態と知見を共有する機会を作ること。
② 旅費や出張日を確保することが難しい方(学生、非営利団体、独立研究者…)にも気軽に議論に参加してもらうこと。
③ アジア太平洋圏のフードシステムの持続可能性の向上に資するような超学際的なコラボレーションをサポートすること。
これらを満たすようなオンラインでの国際会議のデザインを検討した結果、以下のような形式にしました。
・もともと3日間として予定していた会期を2週間に拡張して、
・Google Meetでリアルタイムのイベント(プレナリーセッションなど)を行い、
・Slackで意見交換や情報共有、相互学習(個別の研究報告など)を行う。

和出伸一さんのイラスト:2つの会場

オンラインでのコミュニケーションの長所・短所についての多くの論文をふまえていますが、主に参考にしたのは以下の論文です。
Arnal, A., Epifanio, I., Gregori, P., & Martínez, V. (2020). Ten Simple Rules for organizing a non–real-time web conference. PLOS.
事務連絡(メール)・意見交換や相互学習(Slack)・お楽しみイベント(Google Meet)を組み合わせる形式は、他のオンライン学術会議でも多く見られたので、今後、一般的になっていくことでしょう。

APSAFE2020では、21本の個別報告が行われました。インド、台湾、タイ、インドネシア、ネパール、そして日本から、さまざまな取り組みや事例の紹介とそれらについての倫理的検討はどれも非常に示唆に富むものでした。報告者はそれぞれSlackにチャンネルを持ち、ポスター発表のように、チャンネルに訪れた参加者と意見を交わしました。それぞれの報告のテーマは、以下のようなものです。

・インドでの技術移転とその波及的効果(女性のエンパワメントなど)
・ミクロネシアの伝統的漁法に見出される生態系保全の美徳
・インドネシアのカニ漁におけるジェンダーの格差の是正
・日本に旅行したベジタリアンが直面する困難
・食選択、アイデンティティ、集団からの排除の関係性
・グローバルな食料供給網のリスク:ロイヤリティーの側面からの考察
・COVID-19パンデミックで明らかとなったフードシステムの脆弱性
・都市住民は生態系サービスにどの程度、関心と支払意欲をもっているのか
・産消提携以降の日本のオルタナティブ・フード・ネットワーク
・種苗法改正にの議論における「公益」概念について
・「グリーンインフラ」から「マルチスピーシーズ(多種)の都市」への方針転換が必要な理由
・韓国における地元の魚取り祭の、新聞での報じられ方の変化
・種子の自家採取をする農家は何を考えながらそれを行っているのか?
・インドにおける市民のフードネットワークの進展
・ネパールにおける伝統的な高地米栽培
・「森は海の恋人」運動は、持続可能な社会への移行/転換の種となりうるか?
・さまざまなオルタナティブ・フードの概念を、日本では「みんなの食」という概念で提起してはどうか?
・ブータンにおける食肉慣行が反映する、社会・経済・宗教的側面について
・ブラジルでローカライズされた日本酒はどのような食品として需要されているのか?
・ 哲学研究者はフィールドワークでどのような振る舞い方が望ましいのか?
・農の多様性をSNS(TwitterやInstagram)は促進するだろうか?

関心のあるテーマはあったでしょうか? APSAFE2020のサイトでは、報告者による詳細なショートペーパーをすべて無料で読むことができます。

APSAFE2020では、5人のゲストスピーカーをお迎えし、3回のプレナリーセッションも開催しました。

Kirill Thompson先生のご発表

12月3日のオープニング・プレナリーでは、国立台湾大学のKirill O. Thompsonさんから「農業と食べ物の未来についての倫理的考察」というタイトルでビジョニングスピーチをいただきました。十分な食料生産量と環境負荷や搾取の低減を両立させるような、伝統的農業と先端技術の組み合わせというテーマは、その日のGoogle Meetでの質疑応答にとどまらず、Slackでも活発に議論が続けられました。

キーノートスピーチの様子

12月11日は、キーノートスピーチです。アメリカ・ミシガン州立大学のPaul B. Thompsonさんから「食農倫理学:いまこそ基本に立ち返る?」、台湾・国立清華大学のWei-Chi Chang(張瑋琦)さんから「食品安全と国家安全保障、どっちが大事?:パンデミック後の地域のフードシステムに対する世界的な政治的変化の影響」、日本・総合地球環境学研究所のSteven McGreevyさんから「+1.5度のフードシステムへの移行の倫理的意味」、ノルウェー・ベルゲン大学のMimi E. Lamさんから「倫理的なシーフードバリューチェーンによる世界の海洋-人間システムの維持」というタイトルでご講演いただきました。日本時間の20時から22時半までの予定でしたが、公式なプログラムが終わった後も、残った参加者の皆さんと23時半近くまで議論が続きました。これらのスピーチにつきましては、後日、YouTubeでの公開を予定しております。

議論の様子

12月16日のクロージング・プレナリーでは、参加者の皆さんと2週間にわたる会議の感想をライトニング・トークで共有し、2021年度に開催予定のウェビナー・シリーズで扱いたいトピックやテーマについて、Slackでの議論をふまえてアイディアを出し合いました。気がつけば、2週間の会議で、Slackには31の議論のチャンネル、3,488の投稿がありました。ウェビナー・シリーズにつきましては、詳細が決まり次第お知らせいたします。どうぞご期待ください。

主催者としておよそ1年間、国際会議の準備と実施に携わってみての感想は、良いチーム、良いツール、余裕あるスケジュールは本当に大事、という点に尽きます。ショートペーパーのレビューを引き受けてくださったサイエンス・コミッティの皆さま、誠にありがとうございました。また、オンライン上に素晴らしい会場を作り、運用してくれた、デザイナーとセクレタリーの皆さん、ありがとうございました(チームの皆さんの名前はこちらで見ることができます)。

APSAFE2020に参加された皆さま、長丁場でしたが、お付き合いいただきありがとうございました。良いお年をお迎えください!