日本の中の別世界ー都市と田舎における新型コロナウィルス感染症の影響(プロジェクト・リーダー スティーブン・マックグリービー、上級研究員 田村典江)

FEAST HQ WG3

日本の新型コロナウィルス感染症対策は、理由は明確に判明してはいないものの、概して成功していると伝えられています。感染拡大の中心となった東京では行政検査は不十分であったものの、感染の猛威が最高潮に達した際でも、先進7か国の中で死亡率は最も低く、12%に留めていました1。文化的にソーシャルディスタンスやマスク着用に違和感なく取り組める、高齢者の健康状態が良いなど、さまざまな説がありますが、結論が出るにはしばらく時間がかかるでしょう。

理由はどうであれ、コロナは私たちの毎日の暮らしに大きな変化をもたらしました。全都道府県を対象とした非常事態宣言が発令され、特定警戒都道府県も指定されました。良くも悪くも、外出自粛が奨励されたことから、実質的に日本はロックダウンの状態になりました。学校は休校となり、親は在宅勤務と子どもの在宅教育の世話の両立に追われる一方で、通勤時間や長い会議がなくなり、余分な時間を得ることもできました2。また、外出自粛が始まると、既に多くの会員数を誇る生活協同組合では、食品を各家庭へ直接配達することもあり、会員数も注文数も大幅に増加しました3。しかし、日本の都市部の生活空間は狭いことで有名なように、外出自粛は多くの人にとって非常に窮屈に感じるものとなりました4。他の多くの国と同様に日本でも、外出自粛要請によりテレワークが広く普及し、働き方や、都市部や農村部での暮らしや仕事が将来的にどのように変化していくかについて考える機会となりました。

日本の田舎では過疎化が急激に進み、人々は田舎での生活を捨て、東京、大阪、福岡といった都市へ移住してきました。しかし同時に、出世競争にうんざりしている、自然を楽しみたい、安心して子育てをしたいという人々の移住先でもあります。今回の感染症拡大によって、多くの若い世代は仕事先として田舎に目を向けるようになりました5。田舎への移住は過去にブームとなり、「〇〇ターン」といった呼び方が数多く生まれました。最近の移住傾向が何らかの兆候であるとすれば、田舎への移住ブームが再燃するでしょう。田舎への移住に関する情報提供を行う非営利団体によると、過去5年間で問合わせの数は4倍に増えているそうです6。特に、テレワークによって都市と田舎の2カ所で暮らすことが可能となり、Oターン(2カ所の家を行ったり来たりすることが丸いOの形に似ているため)の増加につながっています6。日本では、地方分権の推進が長年に渡り議論されてきましたが、今回の感染拡大はそうした議論の転機となるかもしれません7

日本では都市部において外出自粛が最も厳格に実施されましたが、田舎ではあまり普段の生活と変わらず生活を送れているようでした。食品カロリーの60%を輸入に頼る日本にとって、感染拡大の中、国内での食料生産は重要なカギを握っています。もちろんコロナの影響を直に受けた業種もあり、例えば学校給食の材料を提供していた生産者は、休校のため食材を廃棄せざるを得ない状況となりました8。しかし全体としては、生産者らはなんとか危機を切り抜け、スーパーではトイレットペーパーが売り切れることはあったものの、棚が空っぽになるということはなく、商品が補充されていました。

総合地球環境学研究所のFEASTプロジェクト9では、その研究活動の一環として、全国の農家を対象としたオンラインアンケート調査(4月24日~5月30日、n=170)を実施しました。その結果から、日々の運営についてあまり変化がなかったことが判明しています。本調査は主に、小規模でオルタナティブな農法を取り入れている農家を対象に、オンライン上のネットワークを介して協力を依頼し、感染拡大により農園の運営や家庭内や地域コミュニティ内での暮らしに変化があったかを問うものでした。緊急事態宣言発令中も、農家の規模や営農の形態に関わらず、販路・流通経路は変わらず、コロナの影響としては健康、教育、医療へのアクセスに関する懸念が農業に関する懸念をはるかに上回っていました。一般的には田舎は高齢人口が多く、医療機関も限られており、感染クラスターとなる可能性が高いと考えられています。

本調査では、有機農業を実践し会員制宅配を行う小規模農家が、他の営農形態の農家と比較して、どのようにコロナの影響を受けているのかを探ることを目的としていました。感染拡大について最も心配しているのは何かという質問に関し、有機農家(認証あり、認証なし共に)は、慣行農家と比較して、農作物の売れ行きや農園管理、そして日々の暮らしや健康への影響についてはあまり心配していないことが明らかとなりました。こうした調査結果は、有機農家は農業資材(種、マルチなど)の調達経路を確立しており、会員制販売により販売経路にも問題がないことを示唆しています。その一方で、慣行農家は市場の不確実性に振り回されているようでした。また、昨年の同時期の総売上と比較した際、認証を受けていない有機農家ではわずかに増加し、他の営農形態の農家ではわずかに減少していました。佐賀県の農業法人が実施した調査によると、県内の農業法人の60%以上が売上の減少を受け、うち14%が2割以上の売上減少などの大きな影響を受けており10、今後は多様な営農形態のあり方に焦点を絞った調査が必要でしょう。

本調査は、新型コロナウィルス感染症が猛威を振るう中、農家がどのように対処してきたか、またさまざまな営農形態や運営のあり方が危機的状況下でどのように回復していくのかを評価することを目的とした多国間比較調査の一環です。これまでに、コロナ対応策が比較的成功していると評価されてきた日本と台湾、そして数多くの被害者が出たイタリアにて調査を実施してきました。今後も危機が差し迫る中、分権化が進み、自律した農業に軸を置いた田舎暮らしが、私たちのフードシステムと健康の長期的な持続可能性に重要な役割を担うと考えられます。

※本ブログ記事は、Countryside and Community Research Institute のブログへの投稿記事の和訳です。

 

(和訳:Yuko K.)

有機農家さんによる野菜配達の様子