イタリアのオルタナティブな農家と新型コロナウィルス感染症:ロックダウンの影響と農家の声 (広島大学博士課程 Simona Zollet)

FEAST HQ WG3, レポート

FEASTプロジェクトでは、新型コロナウィルス感染症が小規模でオルタナティブな農家の暮らしにどのような影響をもたらし、農民たちがどのように対応しているのかについて、多国間調査を実施しており、イタリアのその対象国のひとつです。イタリアは、早い段階でコロナ感染症の影響を大きく受けており、3月9日か5月18日の期間でロックダウン(都市封鎖)が実施され、全国で最低限の生活必需品の小売店以外には休業要請が出され、人々の移動は大幅に制限されることとなりました。

コロナ感染症の農業セクターへの影響に関しては、ロックダウン当初に報道などで取り上げられていた情報は、大規模な慣行農家や食品加工業者関係のものに限定されていました。そこで、本調査では、小規模でオルタナティブな農業を営む生産者に焦点を当て、これまで取り残されてきた多様な農業現場の声を聴くことを目指しました。4月24日から6月1日を調査の期間に設定しましたが、これはロックダウンの影響が十分に表れ、またそれ際した制限などに対し農家が再建し、新たな取り組みを実施するのに、適した期間でしょう。

図1:州ごとの回答者数

本調査は、公式・非公式な小規模でオルタナティブな農民団体や組織の方々のご協力を得て、イタリア国内に広く情報発信し、計132名の方に回答頂きました(図1)。統計的代表サンプルではないかもしれませんが、私たちの把握する限りでは、イタリアにおける小規模でオルタナティブな農家のロックダウン時の状況の理解を目的とした唯一の調査となっています。

132名の回答者のうち、大半がオーガニック農法またはバイオダイナミック農法を行う農家で、48.9%が認証済み、42%が非認証でした。残りの9.2%は慣行農法か減農薬栽培で農業を営んでいらっしゃいました。そして半数以上の農家の圃場が、5ヘクタール以下でした(これはイタリアで「小規模」とされており、国内農業の73%を占めています(※))。また栽培する農作物も多様で、68.2%が野菜を栽培しており、続いて41.9%が穀物、35.7%が果物を栽培しています。

日本の調査結果とは異なり、イタリアの販売経路はロックダウンにより大きく影響を受けました(図2)。ロックダウン中は、各家庭への直接配達のみ大幅に増加し(40.4%増)、他の経路については量に差はあるものの、全て減少していました。

図2:ロックダウン中の販売経路の変遷

 

 

 

 

 

 

 

特に影響が大きかったのは、ロックダウン実施により閉鎖された市場やファーマーズマーケット(コロナ感染拡大前は販売経路として第3位)での販売減少です。多くの農家は、ファーマーズマーケットから所得の大半(あるいは唯一の収入源)を得ていたため大打撃となりましたが、加えて消費者や他の生産者との交流の場を失うことにもなりました。

一方で、直接宅配の増加は、農家がロックダウンへの迅速な対応能力を示唆するものでした。また、これは、オルタナティブな農業を営む生産者にとって、多様な直売のあり方はすでに主要な販売経路であったことが要因となっていると考えられます。さらに、多くの農家は、すでに自身の農場やファーマーズマーケットなど地元での販売を行っており、宅配への移行は比較的容易であったと考えられるでしょう。小規模あるいは遠隔地の自治体においては、一般市民は最寄りのスーパーなどへの買い出し以外に外出が規制されていたこともあり、農家や地元の小売店などによる宅配サービスは、突如として食料調達の主流となりました。

こうした宅配サービスの爆発的人気は、生産者にとっては時間と労力の増加が悩みの種となっていたものの、概して非常に肯定的に捉えられてきました。ここで興味深いのは、回答者のほぼ3分の1(30.9%)が、2019年の同時期と比較して収入が増加したと回答した点です(ただし、平均収入は10%減)。これはおそらく農家から直接購入する人が増加していることに起因していると考えられるでしょう。ただし、収入増の農場のタイプにパターンがあるかどうかについては、さらなる分析が必要です。

日常生活、収入、支援システム、営農活動といったさまざまな側面に関する心配事項に関する設問では、農家の方々からは「地域(コミュニティ)」への関心が明確に示されました。最大の心配事項は、地域活動の減少でした(回答者のほぼ80%が、「非常に心配している」または「心配している」と回答)。続いて、地域の人々と顧客の健康についての心配が多く、その次に、他の農家との交流機会や関連イベントへの参加への自粛が挙げられました。オルタナティブな農家の多くが、地元コミュニティやそれに関連した販売経路を主な販売先としているため、当然の結果ともいえますが、こうした農家は消費者のみでなく、他の農家との直接的な交流も重要視している点を示唆するものでもあります。

より直接的な経済上の懸念は、そこまで優先されてはいないようでしたが、地域(例:販売経路の減少)に関する心配事項とも関連するものです。回答者らは、農作物の販売価格の減少といった側面については概して心配しておらず、これは、オルタナティブな農家が、加工業者のような食品サプライチェーンのアクターから比較的、経済的に独立性を保っているという点を示唆するものかもしれません。同様に、種苗や農業資材の調達についても強い懸念を示しておらず、地元での調達や農場内で生産が可能であるという点を示すものとも言えるでしょう。

また、本調査によって、農家がどのような未来へのビジョンを持っているか、そして新型コロナウィルス感染症が、自身の農場のみならず、地元や国レベルの食農システムにどのような影響をもたらすと考えるかといった点についても明らかになりました。こうしたテーマについての農家の見解は、定性的に2つに区分できました。まず、ひとつのグループは、比較的に楽観的な未来観を有しており、コロナの感染拡大は、食習慣や生産、流通、消費のあり方を、根本的に見直す契機と捉えています。こうした見解に関するコメントは多く、オルタナティブな農家は他のタイプの農家と比較して、ロックダウンによって概して悪影響を受けることが少なく、感染拡大を機に変化する地元の持続可能な食と農業への関心を、積極的に活用しようとしていることを意味するでしょう。他にも、イタリアの「地元産品」は、日常品ではなくニッチや特産品として取り扱われることが多いのですが、日常的に消費するものとして「再発見」すること、それに際して、地元コミュニティとの関係性を再発見することについてのコメントもありました。こうした関係性が確立できれば、農家は今回の感染拡大のような危機にも耐えうるだろうとのことでした。

しかし、もうひとつのグループの未来観は、悲観的と言えるものでした。感染拡大時に、地域のフードシステムに対する政治的および制度的支援が欠如していたことが挙げられたほか、多くの回答者が、スーパーマーケットのような食システムの大手といえるアクターに与えられた優遇措置を批判的に捉えていました。ファーマーズマーケットは即閉鎖されたにも関わらず、スーパーは安全対策をほとんど講じることなく営業継続が許可されていました。また、コメントの中には、感染拡大による経済危機が市民の購買力を低下させ、スーパーのような低コストオプションへと移行するのではという懸念を示唆するものでした。
両者とも実際に起こりうる未来のシナリオです。感染拡大による未来の不透明さを考えると、地元に根付いた食の生産、供給、消費のあり方の進化を継続的にフォローし、どのような変化が根付き、「新しい普通」を形成していくのか理解することは、非常に重要となってくるでしょう。

(※) 出典: 2010 Agricultural Census

(和訳:Yuko K.)