デジタル・フードスケープ・ワークショップを開催しました(地球研フェローシップ外国人研究員 クリスティン・バーンズ、FEASTプロジェクト研究員 小林舞)

FEAST HQ WG2, セミナー、ワークショップ, レポート

8月24日(土)に、FEASTプロジェクトでは、プロジェクト研究員の小林舞、地球研フェローシップ外国人研究員のクリスティン・バーンズ(英国キングス・カレッジ・ロンドン)を中心とし、京都市内のMumokutekiホールにて「デジタル・フードスケープについて考えるワークショップ:みんなが作ってる・みんなが撮ってる・みんなが食べてる『食』」を開催しました。バーンズは今夏地球研(FEASTプロジェクト)に滞在し、日本の食文化がインスタグラムでどのように表現されているのか、また仲介しているのかに関する調査研究を行っており、今回のワークショップはその一環として企画されました。大勢の方にお集まり頂き、基礎分析の成果を報告し、皆さんが食とソーシャルメディアにどのような考えを持っているのか議論できたことは、本研究のアイデアを試すのに非常に有用でした。

バーンズは、FEASTプロジェクトでの滞在中に、インスタグラムにおける「フード・メディア」について、またこうしたSNSプラットフォームが日常的な食とのふれ合いをどのように仲介しているのか、私たちの食のあり方や食へのつながりにどのような変化をもたらしえるのかについて、調査研究を進めてきました。バーンズの出身国である英国において、「フード・メディア」は食のシステムや食文化の変化に大きく貢献していると広く認知されており、現にSNS上で「食」は最も人気の高いコンテンツの一つとなっています。SNSといっても様々なものが存在しますが、その中でもインスタグラムの人気は特に高く、画像ベースであることから「食」に関する投稿に適しており、見た目の良い(あるいは良くない)「食」の投稿に特化したアカウントは数千とあります。日本では、インスタグラムの登録者数は他のSNSと比べて最も増加しており、2018年にはFacebookを追い抜き最多登録者数を誇るSNSとなっています。インスタグラムには、私たちが何をどのように食べるか、一般的な食のイメージや情報に大きな影響を与え得るものであるにも関わらず、日本国内の食に関するインスタグラムの研究はほとんど存在していないのが現状です。本研究プロジェクトでは、まず日本の人気フード・インスタグラマー(インスタグラムに投稿する人)を特定し、人気ハッシュタグから読み取れる価値観やストーリーを分類し、フード・メディアの主要なディスコース(論説)を特定することから始めました。日本国内におけるインスタグラムの投稿には食に関わる幅広いテーマが存在しますが、特に人気の高いインスタグラマーは比較的狭いテーマ設定で食べもの-「お弁当」や「おうちごはん」など-について投稿する傾向がありました。本プロジェクトでは、日本で主流とされる食文化のどういった部分がインスタグラムで表現されているのかを検討し、批評的に分析を行いました。特に、私たちはそうした食に関する投稿でむしろ表現されていない内容、もしくは隠されているかもしれない内容はどういったものか、そしてインスタグラムで表現されるイメージと食に関する課題(社会的、経済的、環境、ジェンダーなどに関わる側面)と実際にそれを食べるという行動との間にどのような問題視すべき乖離があるのかといった点に関心を持ちました。

今回のワークショップは、本研究の初期分析の成果を報告するに留まらず、さまざまな人たちにお集まり頂き、インスタグラムへの認識や、ビジュアルやアートベースの活動が日々の食事のとり方や食にどのような影響を与えているかについて、ざっくばらんに議論を行うことを目的とし企画しました。FEASTプロジェクトのメンバー、興味を持ってくださった一般市民の方たち、料理人、ミニチュア・フードアーティスト、関西で食に関する仕事をされている方など計19名の方にご参加頂き、年齢や性別の面でもバランスが取れたイベントとなりました。2時間のワークショップでは、まずバーンズが話題紹介の短いプレゼンテーションを行い、事前に準備した論題について話し合った他、人気の高い「食」に関するインスタ写真48枚の展示を行いました。メインのアクティビティーとして、参加者の皆さんには、国内の「食」に関する「#ハッシュタグ」のトップ10を基に、インスタ映えする「食べもの」を創作して頂きました。クリエイティブな発想につながるように多種多様な工作用品・資材や、キャラ弁に使われるパンダののりパンチ、ソーセージ用スタンプ、ハローキティーのフラッグピックなどなどたくさんの道具を準備しました。インスタ投稿を意識した食べものを作ることを目的であったため、単に自分の好きな食べものを作るのではなく、インスタ写真として見栄えの良いものとは何かを考える必要があり、参加者の方は頭を捻っていました。最後、参加者の方に、それぞれ作品の紹介となぜそれを作ったのかを発表して頂いて、まとめのグループ・ディスカッションを行ない、ワークショップを終えました。

ワークショップのひとつの目的として、「デジタル・フードスケープ(digital foodscapes)」という概念の紹介がありました。これは、食料地理学者、特にフード・メディア研究者の間で昨今人気のある概念です。フードスケープは、私たちの日々の食との関わり方を形成する様々な出会い(encounters)、衝突(contestations)、抵抗(resistances)といった要因を含み、それらを表現します。ランドスケープ(景観)と同様にフードスケープも、私たちの日々の意識的・無意識的なやりとりに付随する社会的に構築された食の意味や価値を定義するもので、私たちが食べものを買い、料理し、消費する空間(例えば、スーパーやコンビニ、自宅の台所、弁当箱、レストラン)が含まれます。また、食に関する会話や、情報などをも含むことができます。Nora MacKendrick氏がフードスケープに関する短い論文を書かれており、分かり易いのでぜひご一読ください。「デジタル・フードスケープ」は、フードスケープの概念を更に発展させたもので、デジタル技術とメディアが、食に関する多大な情報を生み出し、仲介し、広めることで、食を「消費」する新しい空間や形式を創り出だしていることを認識し、その影響を理解することを目的としています。例として、SNS、ネットニュース、ブログ、レシピの共有、スマホアプリなどがあげられます。特徴として、デジタル・フードスケープは見た目重視で、新しいコンテンツがどんどん創り出され共有されるものの、実際に食べるという行為からは切り離されているものが多いという点が挙げられます。それは、目で食べるという行為を伴うものであり、食べることに付随する本能的で腹で感じる体験(味、匂い、質感など)は失われているか、ビジュアルの二の次という位置づけになります。先行研究では、デジタル・フードスケープは、私たちが何を食べるか、私たちが持つ食に関する知識、その情報源として何(誰)を信頼するのかといった点に影響を及ぼしていることが判明しています。デジタル・フードスケープは、こうした新しいメディアの形は単なるエンターテイメントやビジネスの機会(この二つには同時になり得る)という枠に留まらないものであり、その重要性に焦点を当てるのに役立ちます。

今回のワークショップは、大変うまくいったと思っています。インスタ映えする食べものを創作するアクティビティーが最も人気で、参加者の皆さんは夢中になっており、時間がきても作業を続けたかったようでした。皆さん、詳細にもこだわった素晴らしい作品を作られており、その想像力と技術には驚きました。さまざまな食事が作られ、なぜそうした作品になったのかをしっかり考えていらっしゃいました。例えば、茶そばとウズラの卵のお弁当がありましたが、目に留まる明るい色合いの青い紐と粘土でできていました。ミニチュアの朝食セットは、架空のキャリアウーマンが、忙しい中自炊しつつ、ハッシュタグを数多くつけて、インスタに料理をした努力を投稿するという強い決意を持って作ったという設定で、ちょっと焦げたウインナーが添えられていました。また、完璧なミニチュアラーメンには、ウインクするネコのなるとがのっており、ネット上で最も人気ある「食べもの」と「ネコ」を組み合わせた作品でした。他には、今までに見たことのないほど小さなお寿司セットもありました。かわいさを追求し、できるだけ小さくしたとのことでした。なぜこうした食べものを作ったのかについてお話しを伺うと、インスタ映えのために色味とかわいさが重要と考えたそうです。この傾向は他にも多く見受けられ、食べものとその表現方法を操って、かわいさや飾り的要素は強調することが重要であると認識されていました。参加者の中で1名だけが、味または栄養素について考えておられ、オーガニックの野菜や魚を使った身体に良い晩ごはんをデザインされていました。工作用資材で食べものを作ったからかもしれませんが、他の参加者の方たちは、味や食べることは主な関心事項ではなかったようです。

議論では、参加者の方々に、なぜインスタグラムで食べものの投稿がこんなにも人気になったのか、またその影響にはどのようなものが考えられるかなどを質問しました。インスタグラムを日常的に使っている人は参加者にはあまりいらっしゃいませんでしたが、投稿されている方は食べたり作ったりした食べものをシェアする手段として、あるいは日記のように食べたものを覚えておく手段として利用されていました。参加者の中には、ご自身のお子さんが作った料理の写真を投稿されているお母さんがいらっしゃいましたが、ひとが料理の写真を投稿する理由として、普段家族のために料理を作っていても評価されることが少ないため、「いいね」やコメントを通じて評価されることを、特にお母さん世代が求めているのかもしれないとのご意見をいただき、他の参加者もこの意見に同意していました。インスタグラムの意義についての意見はあった一方で、インスタグラムのもたらす問題についてはあまり議論がなく、「食べもの」の写真を撮り、ネット上でシェアするという流行の継続は概ね受け入れている様子が伺えました。FEASTプロジェクトでは、食の裏にある労働や、ジェンダー問題、栄養、そして農業の持続可能性といった話題がインスタグラムの投稿からは見えてこないことへの疑問が上がりました。将来的に、またこうした課題の提起を含め、一般の方々と議論を続けていくことは有益でないかと考えています。

(和訳:Yuko K.、和訳校正:小林舞)

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