応哲サマースクール「フードスケープをつなぐ:食と農について学ぶ3日間」を開催しました!(プロジェクト研究員 太田和彦)

FEAST HQ WG2, セミナー、ワークショップ, レポート

9月15日から17日の3日間、応用哲学会サマースクール「フードスケープをつなぐ:食と農について学ぶ3日間」を、総合地球環境学研究所で開催しました。

応用哲学会サマースクールとは、応用哲学会が毎年開催している、ファッションや数学、公害問題、宇宙開発、ビジネス倫理など、さまざまなテーマを掲げたサマースクールです。今年は「食と農」をテーマとして、私と南山大学の神崎宣次さんが企画者となり、イベントを開催する運びとなりました。

タイトルにあるフードスケープ(foodscapes)とは、私たちが食べ物を入手したり、調理したり、それについて話したりするなかで、食べることに何らかの意味を見出す場所や空間を指す言葉です。スーパーマーケット、台所、フードコート、コンビニエンスストア、農産物直売所などの他、農場や庭園、教室、インターネット、想像上の料理や未来の食卓も含まれます。

今回の応哲サマースクールは、FEASTプロジェクトと応用哲学会さん、京都ファーマーズマーケットさんとの共催として実施されました。企画の目的は、
① サマースクールの講師の方々には、ご講演をいただくとともに、複数の写真・映像(フードスケープ)をお持ちいただき、
② 聴講者の皆さんとの意見交換をつうじて、「様々なフードシステムを一望するようなフードスケープ」としてまとめ、
③ そのプロセスを記録し、分析することで、フードスケープをつなぎ、統合するプロセスのなかで何が明らかになったといえるのか、また何が新しく問われるようになったのかについて明らかにする。
というものでした。参加者は全員で40名。社会学、地理学、生態学、現代美術や整理収納に至るまで、多彩な専門の講師の方々と、哲学や倫理学の研究者、食に関わるさまざまな取り組みをなされている聴講者の皆さまとの3日間のディスカッションは非常に刺激的なものでした。普段はなかなか話す機会がない方々が、リラックスしてお話できるきっかけをご提供できたのは、今回のイベントの大きな収穫のひとつでした。

当日のタイムテーブルは以下のとおりです。

1日目

2日目

3日目

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

意見交換会は以下のように行われました。

フードスケープを描いたり、それについて話し合ったりすることは、参加者が表現した食べ物に関連するスケッチや写真から出発して、個人的な好みや経験を、社会的・政治的・歴史的な事柄とつなげて語るきっかけとなることがこれまでの研究で明らかになっています。それだけでなく、フードスケープを介した対話は、日常の食選択からは見えない多様なレベルの関係性(法制度、物流、文化、購買習慣など)を見出す機会になることも示唆されています。また、多彩な背景をお持ちの方が集まっての意見交換となるため、3日間のサマースクールではずっとグラフィックレコーディングをしていただきました。

意見交換の流れ

 

 

 

 

 

 

3日間の流れを簡単に追っていくと以下のとおりです。

1日目 午前]太田からの趣旨説明のあと、FEASTのSteven McGreevyさんによる「Sustainability transitionから見たフードポリシー・カウンシル」の講義、参加者有志による「京都ファーマーズマーケットについて私が知っていること」についてのフィッシュボウル形式での意見交換を行いました。なぜフードスケープなのか。21世紀にはいってから、都市の食料政策(フードスケープ)のあり方に世界中で注目が集まっているの理由は何か。ファーマーズマーケットはどのようにして、単に農作物を売ったり買ったりする場所ではなく、勉強会を開いたり、あるいは広く交流の場になっていくのか。――といったことが話されました。それを受けた参加者の皆さんには、感想や学んだこと、思いついたことなどを、絵と文章で、フードスケープのかたちで描いてもらい、それにストーリーをつけて周りの人のフードスケープとつないでもらいました。

1日目 午後]午後は同志社大学の岩島史さんによる「エンパワメントから見た戦後日本の農業」、宮城大学の石川伸一さんによる「培養肉・昆虫食・3Dフードプリンタから見た新しい食の課題」、FEASTのChristophさん、小田さんによる「縮小社会から見た都市の農地」の講義です。エンパワメントという概念のもとで一緒くたにされてしまう”農村女性”のさまざまな活動、先端技術が可能にする新しい食のかたちとそれが突きつける倫理的課題、人口が減り続けるなかで都市農地も減っていく日本の実情などが紹介されました。多くの参加者の方が、SFのような先端技術に衝撃を受けていたように思われます。講義後は、再びフードスケープを描く・つなぐを行い、地球研ハウスで夕食会となりました。

2日目 午前]2日目は、1日目の振り返りのあとで、太田による「食の歴史と腸内細菌から見た土壌」、FEASTの真貝さんによる「ミツバチから見た持続可能な都市」、アーツ前橋の住友文彦さんによる「美術と食のコスモロジー」の講義です。義務教育の指導要領ではほとんどふれられることのない、しかし生態学的には持続可能な社会を支えるうえでなくてはならない、足元の土壌資源と、花粉媒介者(ポリネーター)としてのミツバチについての2つの講義のあとで、このサマースクールのヒントともなった2016年度のアーツ前橋の企画展「フードスケープ 私たちは食べものでできている」について、その全貌をお話いただきました。皆さんのお話を聞き、私も話しをするなかで、「食卓からは見えない風景についての、想像力の射程距離を広げる」というのが今回のサマースクールのそもそもの目標であったことを思い出しました。講義後の皆さんのフードスケープを見ると、その目標はどうやら達成されたようでした。

2日目 午後]午後はModerato Styleの藤枝侑夏さんによる「食品ロスから見た整理収納」、FEASTの小林舞さんによる「食習慣・食生産の変化から見たブータン」、Umioniaの江口崇さんによる「日本酒から見たグローカリゼーション」の講義です。片付けで減らせるはずの食品ロス? ブータンのベジタリアニズムと食肉文化? ブラジルやメキシコで醸造される日本酒? など、現地を数多く見てきた講師の皆さんだからこその驚きにあふれるトピックが満載でした。食べることはまさに世界中を覆う――とフードスケープにまとめながらくらくらしてきたところで、懇親会の時間となりました。

3日目 午前]3日目はこれまでの12コマの講義を、自分の関心に引き付けて再構成して新しいリレー講義にする、という総まとめの時間としました。皆さんのそれぞれの個性が発揮される19のプログラムが発表されました。どれも受講してみたいです…。そしてより南山大学の神崎宣次さんによる「良いTransdisciplinary Process に向けて」の講義の後で、今回のサマースクールのような超学際的な実践をどのように進めていくことが望ましいかについての意見交換を行いました。ミネルヴァのフクロウは夕暮れに飛び立つ、ではないですが、これまでの経験をふり返るときに、哲学的なものの見方はほどよく距離をとるツールとなることをあらためて感じました。

現在のフードシステムが抱える様々な問題(環境負荷、格差、飢餓、搾取…)は深刻です。しかも、非常に複雑で巨大なフードシステムの総体、そして極めて多様な背景や価値観をもつ関係者の方々のあいだで「望ましいフードシステムのあり方」を一意に決めるのはほとんど不可能です。私たちを圧倒するかのような複雑さを無視することなく、また途方に暮れることもなく、私たちの日々の食卓と、その食卓を支えるフードシステムとのつながりをたどるうえで、フードスケープはどのように役に立ち、また役に立たないのか。今回のサマースクールはそれを測る一つの実験でもありました。後日、最終日に参加者の皆さまにご協力いただいたアンケートを分析し、その試みがどのようにうまくいったのか、うまくいかなかったのかを、ご報告できればと思います。

今回のイベントにご参加された皆さま、お付き合いいただきありがとうございました。最後になりましたが、本企画の実施にあたっては、ご登壇をいただいた講師の皆さまの他、京都大学の大庭弘継さん、京都ファーマーズマーケットの井﨑敦子さん、那須真由美さん、吉原麻奈加さんはじめスタッフのみなさま、グラフィックレコーダーの谷口彩さんには大変多くのご助力をいただきました。また、ケータリングでは、にじいろごはんさん、出町うさぎさん、わっぱ堂さん、懇親会ではかぜのねさんにお世話になりました。記して感謝申し上げます。

1日目

グラレコ1日目①

 

グラレコ1日目②

2日目

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グラレコ2日目

3日目

京都ファーマーズマーケットさん選りすぐりのケータリング